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東京高等裁判所 昭和59年(ネ)3332号 判決 1985年8月07日

控訴人

ロッテ物産株式会社

右代表者

重光武雄

右訴訟代理人

古沢照二

原慎一

腰原誠

被控訴人

伊藤萬株式会社

右代表者

多田昭三

右訴訟代理人

河合弘之

竹内康二

西村國彦

井上智治

栗宇一樹

堀裕一

青木秀茂

安田修

長尾節之

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人の請求を棄却する。

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

主文一項と同旨

第二  当事者の主張

当事者双方の主張は、次のとおり付加、訂正するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、ここにこれを引用する。

一  原判決書四枚目裏九行目中「必要とする」から同一〇行目中「されていた。」までを「得ることが必要とされており、浜田係長は、取引の勧誘及び契約条件の交渉という事実行為に関する権限のみを有していたにすぎなかつた。」に改める。

二  (過失相殺の主張)

仮に、控訴人が使用者責任を負うとしても、被控訴人にも過失がある。すなわち、被控訴人の前川課長は、本件取引に際し、浜田から社内的地位の不明確な「主事」の肩書のある名刺を渡されたにすぎず、しかも、控訴人との初めての取引であり、その額も四八五一万円という高額なものであつたから、浜田の地位、権限等を控訴人に確認すべき注意義務があつたのにもかかわらずこれを怠り、更に、本件契約書に控訴人の社判、代表者印を押捺することを求めていながら、浜田がこれに応じないで、単に同人の個人印のある契約書を郵送してきたのをもつて控訴人と正規に契約が成立したものとして、本件商品を引き渡したものである。被控訴人の右過失は重大であり、これを斟酌すれば八割以上の過失相殺をすべきである。

第三  証拠<省略>

理由

一当裁判所もまた、当審における証拠調べの結果を考慮してもなお、控訴人の抗弁を排斥し、被控訴人の本訴請求を正当として認容すべきものと判断する。その理由は、次に付加、訂正するほか、原判決の理由説示のとおりであるから、ここにこれを引用する。

1  原判決書七枚目表二行目中「二」を「三」に改め、同一一行目中「免れない。」の下に「のみならず、商法四三条一項所定の商業使用人に全く代理権を与えないことが許されるとしても、原審証人前川浩一の証言によると、前川課長は、本件売買契約を締結するに当たり、浜田係長が一切の代理権を有していなかつた事実を知らなかつたことが認められ、右善意につき前川課長に重過失があつたことを認めるに足る証拠もないから、控訴人の右抗弁は理由がない。」を加える。

2  同九枚目表八行目中「一三日」の下に「(なお、控訴人は代金の支払につき、右時期よりも後に到来する期限の合意があつたことをなんら主張していない。)」を加える。

二なお、浜田係長が商法四三条一項所定の商業使用人に該当する点につき敷衍する。

商法四三条一項の趣旨は、営業活動は反復的・集団的取引であることを本質とするから、このような営業活動に関するある種類または特定の事項の委任を受けた商業使用人については、取引の円滑確実と安全とをはかるために、右使用人と取引する第三者がその都度その代理権の有無及び範囲について調査確認することを要せず、単に右使用人であることを確認するだけで取引できるように、右委任を受けた事項に関しては、営業主から現実に代理権を与えられているか否かを問わず、客観的にみてその事項の範囲内に属すると認められる一切の裁判外の行為を営業主を代理してなす権限を有するものと擬制したものであり、右使用人に該当するというためには、単に前記事項の委任を受けていれば足り、法律行為に関するなんらかの権限を与えられていることは必要でないと解するのが相当である。そして、浜田は、単に「係長」なる肩書を与えられていたにすぎないものではなく、本件売買契約締結当時控訴人の「物資部繊維課洋装品係長」の地位にあつたことは当事者間に争いがなく、同人が洋装の衣料品につき取引の勧誘、契約条件の交渉事務を担当していたことは控訴人の自認するところであるから、同人が商法四三条一項所定の商業使用人に該当することは明らかである。したがつて、被控訴人の前田課長において、当時、浜田が控訴人の係長であつたことを認識していなかつたとしても、右判断を左右するものではない。

三したがつて、被控訴人の主位的請求を認容した原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官舘 忠彦 裁判官新村正人 裁判官赤塚信雄)

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